中央青山監査法人は、中央監査法人と青山監査法人が合併し、いわゆる日本の「4大監査法人」の1つであり、中でも日本最大手の規模であったが、不祥事がもとで平成18年に,金融庁から「監査業務停止処分」を受けた。その後、出直すため「みすず監査法人に改称」したものの、信用回復に至らず営業の継続を断念し、翌年平成19年7月31日に解散するに至ったのである。
業務停止処分を受ける直前において、監査を担当していた会社は5330社に上り、トヨタ・ソニーなど、日本を代表する企業を顧客としていたが、平成18年に金融庁の監査業務停止処分により、大口顧客を失ったといわれている。解散時の直前の理事長は奥山章雄氏(前日本公認会計士協会会長)であった。
合併前の中央監査法人の前身である「監査法人中央会計事務所」は、設立当時より大手監査法人の一つであり、中瀬宏通・村山徳五郎の元日本公認会計士協会会長の事務所運営のもとに発展したとされている。
かたや青山監査法人は、海外提携先のプライス社の直営監査法人であった。他の外資系監査法人が合併等で国内監査法人の一部となる中、青山は仙台、横浜、広島他地方の主要都市に続々と事務所を開設するなど規模を拡大していった。ソニー、旭化成などビッククライアントを擁するなどの大規模法人であった。
これら2グループが中心となり進展していくなかで、金融庁の指導の下で中央と青山と合併し中央青山監査法人となったのである。
以上の経緯のなかで、これまで発生した粉飾決算関連の出来事を記しておきたい。
1. 合併前の「中央監査法人」での出来事としては、山一証券、足利銀行など粉飾決算をしていた破綻会社の監査を担 当 していたため、破綻後の新経営陣から訴訟をおこされており、足利銀行事件では平成17年初めに金融庁から「戒告処分」を受けたとされている。
2. 合併後の「中央青山監査法人」での出来事としては以下のとおり
①平成17年に発覚した「カネボウ」の粉飾決算事件では、監査を担当していた会計士3名が、粉飾を指南していた疑惑で「証券取引法違反の罪」で起訴。その外事務所や奥山章雄理事長の自宅が家宅捜査された。奥山理事長は報酬を50%カットしたのみで留任(のちに平成18年5月に監査業務停止処分を受けた際に辞任)したが、他の理事は全員辞任した。
②平成18年5月10日、金融庁の公認会計士・監査審査会は、中央青山に2ケ月の「監査業務停止処分」を命じた。これは4大監査法人にとって前代未聞の事態であり、この処分によって、中央青山に監査を依頼している企業に大混乱をもたらす結果となった。
③平成18年6月1日中央青山の海外提携先である「プライス社」は、中央青山の監査業務停止に伴う顧客の受け入れ先 として、「あらた監査法人」を設立。業務停止処分明けの平成18年9月1日、中央青山監査法人は「みすず監査法人」と改称して再起を図ったが、上場企業の顧客は落ち込む一方であった。
④それから間もない平成18年12月18日、みすず監査法人が監査を担当していた「日興コーディアルグループ」の有価証券報告書に虚偽記載(利益水増しによる粉飾決算)が発覚。問題となった平成17年3月期の有価証券報告書に、旧中央青山が「適正意見」を出していたことから、日興証券の虚偽記載を見逃していたことが問題視された。
⑤これらの相次ぐ不祥事に伴う信用失墜により、多くの会計士や職員が退職し、法人内で動揺が広がり、解散への道を歩むこととなるのである。
平成19年2月20日、片山理事長は記者会見で、みすずが監査業務から撤退し、他の大手3法人(新日本、あずさ、トーマツ)などへ監査業務の移管、社員・職員の移籍を行う方針を発表した。
これにより、日本最大の監査法人だった旧中央青山監査法人は[解体]されることになったのである。
⑥平成19年7月31日、中央青山監査法人は、監査法人としての業務を終了「解散」したのである。
3.上記④項、日興コーデアルグループに関するコメントに関し、日興証券内部でも大きな問題となり、経営会議等上層部での審議が注目され、マスコミにも取り上げられたので、改めて、紹介することとしたい。
「日興証券内部の議事録抜粋」
渡辺監査委員 今期の経理処理に虚偽がある。監査人の意見書では問題ないとしてい るが、(私は)納得していない。
金子会長 経営会議で山本CFOに確認したが、明瞭な回答がなかった。会計士が山本CFOにこのようにしろと言ったのか。
有村社長 山本CFOが会計士にこのような処理を強く迫ったと思う。
金子会長 これは粉飾決算ではないと思うが。
可知取締役 粉飾決算と思う。
渡辺(隆)監査役 中央青山の解釈はおかしい。会計士5人に聞けば4人は「ノー」というと思う。
有村社長 山本CFOにきちんと処理するように言っておく。
金子会長 「粉飾決算はするな」と常日頃から言っていた・・・・・
以上に関し、会計実務半世紀の経験者としての意見を述べさしていただくと以下の通り。
本来、監査法人は、上場企業に関し法に元ずく監査を行い、企業に万一不正会計、粉飾等あれば、厳正な法律に元づく権限により、上場企業を上場廃止に追い込むことができる強い権限を有しているのである。しかしその監査法人が全く逆に、金融庁から、前代未聞とされる「監査業務停止処分」(民間での業務停止、上場廃止その他に相当)を受けたのである。
監査業務停止処分とは、私流にいえば、金融庁が業界ナンバーワンの中央青山に対し、あなた方には、監査する資格も能力もありませんので、一定期間、監査業務を停止するよう命じます、というものであり、日興証券の監査は当然のこととして、他の顧客の監査ができなくなるということであり、監査法人にとって致命的処分に相当するものなのである。
更に言えば、担当会計士個人への罰則適用だけでなく、監査法人自体にも問題があるため、貴法人はこの業界に存続する価値はなく、一定期間の業務停止にとどまらず「解体・清算」してもらって結構ですよと、言われたに等しいのではないかと私には思われるのです。(現に解体・清算したのである)
会計士でありながら、会計士の使命とは何かはおろか会計の基本の基本さえ理解していないのか、上場企業の役員から異論を述べられても反論できず、押し切られれてしまうか、弁護士の次に難しいとされる国家試験をパスし、時に先生、先生と言われて舞い上がってしまうのか、ルール違反なのに、よく思われたいのか、かっこつけようと、もっともらしく、物知り顔で、正当化して進めてみたりするものもいるのである。その挙句の果てに監督官庁から業務停止処分等数々の処分を受けるのである。
中には、使命感に燃えた、素晴らしい会計士もいないわけではないが、ごくごく少数派であり、大部分はこれが会計のプロかと唖然とするものが多いのが実感であり、有名国立大学卒の会計士が、偉ぶって「貴社がどんな処理(会計規則違反)しても俺が通してやる」と言わんばかりのことを繰り返す無知と傲慢さに呆れかえり、私の一存で出入りさし止めにした経緯を、今、思い起こしているところである。
税務署の職員が脱税を見逃した場合、警察官が交通ルール違反を見逃したりした場合、それは部下の問題で、署長等幹部には責任はないと平然としていられるか、そんなことあり得ないことと思うが、会計の世界では、それは会計士個人の問題であり、責任者には関係ないと言える特別の業界・世界なのであろうか?監査法人が前代未聞の業務停止処分を受けたというのに、恥ずかしくかっこ悪く、監査(会計士,団体役員)などやってられないと思わないのであろうか?そのような職業、人間が企業から社会から尊敬されるに値するのであろうか?
「今は亡き中央青山監査法人」の「会計・経理」もさぞかし嘆き、悲しみ、泣いたことでしょう。
会計の世界で生きてこられた皆様、これから会計・経理の世界で生きていこうと思われている皆様、半世紀にわたり会計士と相対してきた実務経験者の思いの一端を述べましたが、会計や会計士に関する印象が少しは変わりましたでしょうか、参考になれば幸いです。