全ての会計関係者 各位様
上場企業の決算分析に関し、その手法はいくつかあるが、私の手法は以下のとおりの2種類である。一つは「売上と利益の予想と実際、その乖離状況の分析」、二つ目は「利益のみの予想と実際の乖離状況分析」である。(日本・世界で初の分析手法)
ここでいう予想数字は、決算期末のほぼ1ケ月前の3月初旬に、上場企業の義務として、各企業が日経新聞に発表する最も期末日に近い、より信頼できると思われている数字です。東証の基準に「前回予想」に比べ売上10%利益30%以上の変動が見込まれる場合、速やかに修正発表を要するとされているが、その「駆け込み修正発表数字」との比較でないことにご注意ください。(修正発表数字は、会計士の事前監査がほぼ終了、実質「確定数字」であり、確定数字と確定数字を比較しても意味ないので) |
A売上・利益の予想と実際、その乖離状況 | B利益の予想と実際、その乖離状況 |
(1) 増収・増益 | (1)黒字予想の赤字転落 |
(2) 減収・減益 | (2)赤字予想の黒字化 |
(3) 増収・減益 | (3)黒字予想の黒字拡大 |
(4) 減収・増益 | (4)赤字予想の赤字拡大 |
(5) 予想通りの売上・利益 | (5)予想通りの利益 |
上記Aの説明
- (1)(2)は、文字通り、売上も利益もが予想より上回り、増収増益、減収・減益は、これも文字通り、売上・利益ともに予想より下回り、文字通り減収・減益で、ともに、誰にでも理解しやすい内容である。
- (3)の増収・減益は、売上が予想より増えているのに、利益は予想より減っている状況であり、売上が増えれば利益が増えるという原則に反し、理解しがたい内容の一つである。
- 次の減収・増益は、売上が予想より減っているのに、利益は予想より増えるという内容であり、これも、売上が増えれば利益も増えるという原則に反し、理解しがたい。あえて言えば、増収・減益よりも、更に更に理解しがたい内容かと思われる。
- 予想通りの売上利益は、過去13年間の分析結果では、皆無かあっても、1社か数社に過ぎないので説明を要しない。
上記Bの説明
- (1)の黒字予想の赤字転落は、文字通り黒字を公表したが赤字に転落「利益予想ができない」ことを示唆する典型的事例として、私はこの「業績予測はできるか否か」をテーマに、13年間の実態を日本、世界初の試みとして問題提起してきたつもりである。
- 赤字予想の黒字化については、上記とは正反対の内容ですが、これもわずかな事例しかなく、注目するほどのことではないと思っています。
- その他、「黒字拡大、赤字拡大」は、別途分析済みですが、「黒字予想の赤字転落」に比較すれば、注目度ははるかに低く、黒字が増えれば、黒字であることの事実に変わりなく、良かったですね、赤字が増えれば、赤字の事実には変わりなく、残念でしたね、程度の認識かと思われます。
- 本件に関しての「予測通り」は、この13年間の実績にはほとんどなく説明を要しない。
- 上記分析項目のうち、最も注目すべきは、A(4)の「減収・増益」の分析である。理由は、売上が増えれば利益が増えるという原則の正反対であり、売上が予想より減っても、利益は、予想より増えるという現象がどう考えても、理解しがたいのではと思うからである。そこで、そのようなことが、現実にあるのかどうか、あるとしてどの程度あるのかその内容を、以下に説明します。
社 名 | 決算 | 売上高 (単位億円) |
純利益 (単位百万円) |
|||||||
予想 | 実績 | 差額 | % | 予想 | 実績 | 差額 | % | |||
1.ソフトバンク | 3.3 | 59,400 | 56,281 | -3,119 | -5 | 1,910,000 | 4,987,962 | 3,077,962 | 161 | |
2. 武田 | 3.3 | 32,000 | 31,978 | -22 | 0 | 180,500 | 376,005 | 195,505 | 108 | |
3. ANA | 3.3 | 7,400 | 7,286 | -114 | -2 | -519,000 | -404,624 | 105,376 | -21 | |
4.日本製鉄 | 3.3 | 48,500 | 48,292 | -208 | 0 | -120,000 | -32,432 | 87,568 | -73 | |
5.NEC | 3.3 | 30,300 | 29,940 | -360 | -1 | 90,000 | 149,606 | 59,606 | 66 |
5. 以下数百社あるが記載省略、HP本体の「決算情報」をご参照ください。 |
- 売上が予想に比べ減少しているのに、純利益が予想に対し増えている、いわゆる減収・増益という、分かりにくい、事例を列挙したいと思います。売上が減っているのに、利益が逆に増える事例が以下の通り、現実に存在するのです。(利益差額順に記載)
① トヨタを抜き利益日本一など話題豊富なソフトバンクは、売上が予想より3,119億円も減っているのに、純利益は予想に比べ、売上差額3,119億円の10倍の桁違いの3兆779億円も増えています。
これは予想と実際が食い違っている日本一の事例なのですが、これが期末1ケ月前の予測と実際との乖離状況の実態なのです。
② 以下、武田薬品は、売上が予想より22億円減っているのに、純利益は予想より195 5億円も増えています。
③ ANAは売上が予想より114億円減っているのに、赤字増えず、予想赤字より1053億円も赤字が減っています。
④ 製鉄トップの日本製鉄は、売上が予想より208億円減っているのに、赤字予想額が増えるどころか、予想より875億円も赤字が減っています。
⑤NECは、売上が予想より360億円減っているのに、純利益は予想より596億円も増えています。(以下、上記表には省略していますが、「HP本体の決算情報表」をベースに、説明を続けます)
⑥東ガスは、売上が予想より359億円減っているのに、純利益は予想より537億円も増えています。
⑦コスモは、売上が予想より68億円減っているのに、純利益は予想より359億円増えています。
⑧富士通は、売上が予想より203億円下回っているのに、純利益は予想より257億円上回っています。
⑨三菱重は、売上が予想より1億円下回っていますが、純利益は予想より206億円上回っています。
⑩鹿島は、売上が予想より29億円下回っているのに、純利益は予想より185億円上回っています。
⑪マツダは、売上が予想より180億円下回っているのに、純利益は予想より183億円上回っています。
⑫三菱自は、売上が予想より46億円下回っているのに、赤字が増えず、赤字が赤字予想額より176億円減っています。
⑬味の素は、売上が予想より36億円下回っているのに、純利益は予想より164億円上回っています。
⑭清水建は、売上が予想より286億円下回っているのに、純利益は予想より161億円上回っています。
⑮JFEは、売上が予想より128億円下回っているのに、赤字が増えず、赤字が予想赤字より161億円減っています。
⑯色々話題になっている東芝は、売上が予想より157億円下回っているのに、純利益は予想より159億円増えています。
⑰豊田合は、売上が予想より136億円減っているのに、純利益は予想より132億円増えているのです。
⑱ロームは、売上が予想より2億円減っているが、純利益は予想より110億円増えています。
⑲大成建は、売上が予想より499億円も減っているのに、純利益は予想より105億円増えています。
⑳トヨタ紡織は、売上が予想より79億円減っているのに、純利益は予想より101億円増えています。
㉑ 三井化学は、売上が予想より33億円減っているのに、純利益は予想より98億円増えています。
㉒JR西日本は、売上が予想より219億円減っているのに、赤字増えず、赤字が予想赤字より67億円減っています。
㉓ 日ハムは、売上が予想より39億円減っているのに、純利益は予想より66億円増えています。
㉔岩谷産は、売上が予想より420億円も減っているのに、純利益は予想より59億円増えています。
㉕川重は、売上が予想より116億円減っているのに、赤字が予想赤字より56億円減っています。
㉖大王紙は、売上が予想より21億円減っているのに、純利益は予想より51億円増えています。
㉗アルフレッサは、売上が予想より279億円も減っているのに、純利益は予想より49億円増えています。
㉘大林組は、売上が予想より932億円も減っているのに、純利益は予想より47億円増えています。
㉙住友重は、売上が予想より10億円減っているのに、純利益は予想より47億円増えています。
㉚大日印は、売上が予想より46億円減っているのに、純利益は予想より40億円増えています。
(これまで純利益差額40億円までを記載したが、以下数百社あるが省略)
- 以上これまで同じ様な事例を、こまごまと記載してきましたが、これだけ売上だけでなく利益ともに、予想と実際に乖離があり、しかも売上が増えて利益が増えるならともかく、売上が減って利益が増えるなど、皆様理解できますか。
そしてたった一か月前の予想と実際がこんなに食い違っていても、それでも「利益予想ができている」と思いますか?なぜ、こんな状態を放置しておくのでしょう。なぜこんなに食い違うのか、知りたいとは思われませんか?「経費を減らした」から、売上減っても利益が出るのですという、いかにももっともらしい話は、会計の基本の基本を知らない方々がいうことで、それとは次元のちがう話しなのをご存じでしょうか。
- 結論として
(1)今回、「売上が予想より減っても、利益は予想より増える」という減収・増益という事例を改めて示してきましたが、この事例からだけでも、「利益予想はできない、できていない、日本を代表する企業でも、利益予想はできていない」ことを理解できると思うのですが・・・・・・。
(2)このことは、過去50数年問題提起もされず、放置されてきた課題であり、今この機会に見直しがなされないと、恥ずべき状態が、更に更に、数百年続いていく問題なのです。このまま放置すれば、日本の一流企業が破綻・倒産してきたように、日本も倒産・破綻する要因になるのです。企業が経営の見通しをたてられなければ、いずれ破綻・倒産することになりますが、企業が見通したてられないのに、その集約に過ぎない日本国がどうして国の見通しをたてられますか。ここ数十年日本が成長できないのは、ここのところにあるような気がしますが、そうは思われませんか?
(3)専門家の会計学者、公認会計士、監督官庁の担当役職者、会計に携わるビジネスマン、会計に関わる全ての方に告げたい。
「会計後進国」にならないため、「利益予測はできているという認識」は、「思い違い」「錯覚」であることをまずもって認識することから始めませんか・・・・(完)